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米国で怒りが広がる中国政府のウイグル人弾圧

 

中国
米国で怒りが広がる中国政府のウイグル人弾圧
議会・政府委員会で証人が語った過酷な弾圧の現状
2015.7.29(水) 古森 義久
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中国・新疆ウイグル自治区で、ウイグル人が経営する露店で食事をする武装警察官(2015年4月16日撮影、資料写真)。(c)AFP/Greg BAKER〔AFPBB News〕
 久しぶりに会ったラビア・カーディルさんに力強く抱擁された。相変わらず強靭な気力と品のある優雅さを同時に感じさせる女性だった。
 カーディルさんは「世界ウイグル会議」の議長である。彼女は私との数年ぶりの再会を大いに喜んでくれ、私にこう語りかけた。
「また近いうちに、ぜひ日本を訪問したいと思います。日本のみなさんの支援を期待しています」
 彼女と話をしたのは、7月23日、米国連邦議事堂の一室で「中国に関する議会・政府委員会」が開いた公聴会の合間だった。委員会は米国の立法府と行政府が合同で設立しており、公聴会の名称は「習近平の中国での弾圧と支配」であった。
 公聴会は主に中国での信仰の弾圧に焦点を当て、その弾圧対象となっている新疆ウイグル地区のイスラム教徒、チベット仏教徒、中国各地のキリスト 教徒、気功集団の法輪功信者の4集団の各代表が証人となった。カーディルさんは最初に登場し、新疆ウイグル地区での中国当局によるウイグル民族への過酷な 弾圧の近況を語った。
民族抑圧批判の演説で中国政府が激怒
 私がカーディルさんに初めて会ったのはちょうど10年前の2005年9月だった。ワシントン市内のジョンズホプキンス大学院の講堂で彼女の講演会が催されたときである。
中国の新彊ウイグル自治区で当局に国家安全危害罪で逮捕された彼女は6年近くも投獄され、ようやく米国政府の中国当局への圧力により米国への移住がその年の春に認められたばかりだった。そして彼女はワシントン郊外に移り住み、米国での活動を始めたのだった。
 新彊ウイグル自治区出身のカーディルさんは、刻苦と商才でビジネスに成功し、中国十大富豪の1人にまで列せられるようになった。だが、1996年の人民大会堂の政治協商会議での演説で、中国政府の逆鱗に触れてしまう。
 彼女の演説の内容は、事前に提出した草稿とは異なっていた。「中国政府はウイグル人の信教の自由や母語を使う権利を奪い、多数の政治犯を不当に処刑している」と述べ、中国政府のウイグル民族抑圧への非難を表明したのである。
 その結果、中国政府による抑圧が始まった。1999年、新彊ウイグル自治区を訪れた米国議会の代表団に、政治犯についての資料を渡そうとして逮捕され、懲役8年の刑で投獄された。米欧諸国や国連関連機関などからは、抗議や釈放の嘆願が沸き起こった。
「日本の人たちに抑圧の悲惨さを知ってほしい」
 2005年、そんな国際的注視を浴びた人物がワシントンで講演をするというので、私も取材に出かけた。講演が終わり、会場を出ようとすると、後ろから小走りに寄ってきた若い男性に呼び止められた。
「ちょっと待ってください。カーディルさんが日本の記者のあなたに、ぜひとも直接お話をしたいと言っています」
 私を呼び止めたのは、カーディルさんの秘書兼通訳を務めるウイグル人男性だった。私が所属や名前を入り口の名簿に記入するのを見たようだった。彼に連れられてカーディルさんに会うと、彼女から熱を込めた言葉をかけられた。
「アジアで最も民主主義の発展した日本の人たちに、私たちウイグル人が受けている非民主的な抑圧の悲惨さをぜひとも知ってもらいたいのです。そのためには、いつか日本に行きたいと思っています」
 正面からこちらを見つめ、手を固く握って語りかけるカーディルさんはカリスマ性さえ感じさせる迫力と魅力に満ちた女性だった。当時の彼女は58歳 だった。この会合を機に私は彼女とときどき接触するようになり、日本側の関係者たちにも紹介した。それ以後、彼女は在外ウイグル人の国際組織「世界ウイグ ル会議」の議長に選ばれ、ノーベル平和賞の候補にもなった。念願の日本訪問を初めて果たしたのは2007年11月だった。
 1930年代にウイグル人東トルキスタン共和国を建国し、初めて独立を宣言する。しかしまもなく崩壊し、その際、指導者たちは日本に亡命した。 そうした歴史的経緯もあり、ウイグル民族は日本への独特の思いがあるのだという。日本を訪れたカーディルさんは靖国神社に参拝し、尖閣諸島については日本 の領有権を明確に支持した。
エスカレートしている人権弾圧
 今回、ウイグル民族の苦境をカーディル議長から改めて聴取することになった「中国に関する議会・政府委員会」は、議会と政府の各代表が中国の社会や人権状況を調べて、米国の対中政策の参考にする活動を続けている常設機関である。
 委員長はクリス・スミス下院議員とマルコ・ルビオ上院議員が共同で務める。ともに共和党だが、スミス議員は中国の人権状況をもう20年も調査してきた実績がある。ルビオ議員は若手だが、2016年の大統領選挙への出馬を表明した勢いのある政治家である。
 この公聴会は、中国当局が、習近平国家主席の下で歴代政権よりも過酷で組織的な人権弾圧を進めているという米側の認識に基づいて開催された。

つい最近、中国当局は自国内で合計200人もの人権派弁護士を拘束したが、これもエスカレートする人権弾圧のほんの一例だとされている。弾圧の対象 は、共産党の独裁を批判する勢力に始まり、個人の言論や集会の自由、宗教や信仰の自由を唱える人たち、具体的にはイスラム教徒のウイグル人仏教徒のチ ベット人が最大の標的となる。
 なかでも、ウイグル民族に対する弾圧は最も過酷で峻烈だと言える。言語も文化も慣習も漢民族とは異なり、さらにはイスラム教を信仰する少数民族ウイグル人たちを、漢民族主体の中国社会に強制的に同化させようというのが中国共産党政権の年来の政策である。
 ウイグル民族は他の諸国のイスラム教徒との連帯もあり、中国政府の同化政策に激しく抵抗してきた。武力闘争も熾烈で規模が大きい。例えば2009 年7月に新疆ウイグル地区で起きた騒乱では、中国政府の弾圧措置に抗議したウイグル人が、中国側の発表でも150人以上、世界ウイグル会議の発表では 3000人も殺された。さらに2014年7月にも抗議デモが弾圧され、米国政府の情報ではウイグル人100人以上が中国当局との衝突で殺されたとされる。
容疑不明で逮捕された政治犯は数千人
 そんな歴史的な経緯を踏まえて、カーディルさんは7月23日の公聴会で次のような骨子の証言をした。
中国当局ウイグル人が信仰するイスラム教を「テロ、分裂主義、過激宗教の三悪」と断じ、信仰の活動をあらゆる角度から規制し、禁止している。信仰活動は共産党公認の組織の命令に従うことを義務づけられ、男性の髭、女性のスカーフも禁じられた。
イスラム教の「ラマダン」(断食月)も中国当局は許さず、ある小学校、中学校では、生徒と先生の両方がラマダン中に公衆の面前でスイカを食べさせられた。一部の都市ではラマダン中にあえてビール飲みのコンテストなどが開かれ、参加を拒んだイスラム教徒が逮捕された。
習近平主席は2014年4月に新疆ウイグル自治区の都市カシュガルを訪問し、同市駐留の人民解放軍と人民武装警察の基地を訪れ、警備強化を奨励した。習主席はカシュガルを「対テロ戦争の第一線だ」として、同地の軍や警察を特別に表彰した。
・米国政府の国務省だけでなく国連人権関連機関や民間人権擁護組織は、中国政府の新疆ウイグル自治区での行動を「完全な宗教抑圧、人権弾圧」と断じ、中国独自の憲法やその他の国内法にも違反していると非難する。
・海外で中国政府を批判するウイグル人は、みな故郷に残った家族や親類を弾圧された。私自身も長男が懲役7年、次男が懲役9年と、ともに不明瞭な罪状で投獄された。
・中国政府の命令に従わないウイグル人は相次いで逮捕され、容疑不明の政治犯は数千人、文化人、知識人、宗教指導者など著名な人物の拘束は100人以上となった。その結果、ウイグルの固有の信仰や文化は急速に抹殺されつつあり、国外に脱出するウイグル人が増えている。
 委員会のスミス、ルビオ両議員も、カーディル議長の証言を受けて、習近平政権を厳しく非難した。そして、オバマ大統領に対して、習近平主席が9月に米国を公式訪問する際は中国の人権弾圧問題を米中首脳会談の主要議題として追及するよう求めた。
 中国のこうした少数民族に対する過酷な弾圧は、「今そこにある深刻な人道問題、倫理問題」である。70年以上も前の日本の慰安婦問題などとは比較 にならない現在進行形の国家犯罪なのだ。そんな弾圧国家の中国に、人道主義、平和主義の日本が過去の歴史の一断面だけを理由に今なお糾弾されるというの は、あまりにも不自然で、理不尽な現象だと言わざるをえない。