【正論】 トランプ旋風の裏に白人オヤジ層の不満 薬物やアルコール乱用で死亡率も悪化… 吉崎達彦

 

 

2016.3.4 11:55更新

【正論】
トランプ旋風の裏に白人オヤジ層の不満 薬物やアルコール乱用で死亡率も悪化… 吉崎達彦

http://www.sankei.com/column/news/160304/clm1603040005-n1.html

 

 「どうしてこんなになるまで放っておいたんですか」

 「まさか、ここまでひどくなるとは思っていなかったから…」

 スーパーチューズデーの開票速報を見ていて、思わずこんな会話が脳裏に浮かんだ。

 今年の米大統領選挙は異変続きである。民主党のフロントランナーは、大方の予想通りヒラリー・クリントン国務長官だが、ここへ来るまでに「自称・民主社会主義者」のバーニー・サンダース上院議員の猛攻にあった。おかげでクリントン氏自身の発言が相当に「左旋回」してしまった。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への反対姿勢など、日本から見ても気になるところである。

 《しわ寄せ受ける白人中年層》

 それ以上に悩ましいのは共和党である。「不動産王」ドナルド・トランプ氏の勢いが止まらない。これを宗教的保守派のテッド・クルーズ上院議員が追う。エスタブリッシュメントと呼ばれる共和党の本流派からすれば、悪夢のような展開である。

 スーパーチューズデーにおける「トランプ旋風」の裏側には、2つの失敗があったのではないか。

 ひとつは「米国経済の失敗」である。少なくとも見かけ上、景気は良くなったと言われている。金融危機後の2009年に10%を超えていた失業率は、今では5%以下に改善している。だからこそ、米連銀は昨年末には9年ぶりの利上げに踏み切ったのである。

 ところが世論調査会社ギャラップが発表する「グッドジョブ指数」は全く違う現実を示している。米国の成人人口(18歳以上)のうち、フルタイム(週30時間以上)で定収がある人の比率は、3月1日時点で44・5%にとどまっている。なおかつここ5年でほとんど改善していない。

 つまり失業率は半減しても、「グッドジョブ」(良い雇用)は増えていない。これでは「ミドルクラスの復権」など、まったく望み薄である。

 特にしわ寄せを受けているのは白人の中年層だ。プリンストン大学の研究によれば、米国では中年(45~54歳)の白人人口の死亡率が増えている。どの国のどのクラスターでも、死亡率は長期では低下するもので、米国内の黒人やヒスパニックも例外ではない。白人中年のみが上昇するという異常な事態が進行中だ。

《不満を吸収できない政治》

 死亡率悪化の原因は中毒、自殺、慢性肝炎などで、肺がんなど普通の死因は減少している。白人中年の間でアルコールや薬物が乱用されている様子がうかがえる。

 彼らの不満が向けられる先は「不法移民」である。ところが「移民反対」といったことは、普通の政治家は怖くて口に出せない。ただ一人、平気で顰蹙発言を繰り返しているのがトランプ候補である。

 さらに言えば、今日の雇用の現場では男女間や人種間の機会均等が進んでいる。そのことは、白人中年男性から見れば「既得権の喪失」を意味する。そんな中で、今どき女性や移民への蔑視発言をして恥じないトランプ氏は「自分たちのホンネを代弁してくれる人」「政治家らしくない正直な人」という評価になるのであろう。

 あいにくなことに、こうした「白人中年層の不満」を今の米国政治はほとんど吸収できていない。おそらくオバマ大統領も理解していないだろう。むしろ大統領が高邁(こうまい)な理想を語るほど「ああ、わかっちゃいない」という失望を強めているのが現実ではないか。

《「反ワシントン感情」が増幅》

 もうひとつ痛感するのは「米国政治の失敗」である。

 「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」という。今まさにトランプ候補は「不思議の勝ち」を演じつつある。逆に共和党エスタブリッシュメントにとっては、同士打ちや仲間内の足の引っ張り合いによる不本意な負け戦ということになるだろう。党内の亀裂はいよいよ深く、われわれがよく知る、かつてのような懐の深い共和党ではなくなっている。

 民主党クリントン候補を立ててくるのであれば、共和党は若きキューバ移民の子であるマルコ・ルビオ上院議員をぶつけるのが上策であろう。ところが主流派の候補は一本化されず、内輪もめを続けるばかり。途中で選挙戦を撤退したクリス・クリスティー知事は、今ではトランプ候補の応援に回っている。既成政治家たちの見苦しい右往左往は、有権者の「反ワシントン感情」をますます強めているのではないだろうか。

序盤戦の「トランプ旋風」は、共和党の候補者選びに新風を吹き込むものと歓迎されていた。過激な言動は顰蹙を買ったが、メディアの注目を集めたし、新たな有権者を掘り起こす期待もあった。

 しかるにもはや「政治不信」は手がつけられない域に達している。「堪忍袋の緒が切れた」民意をどうしたら正常な軌道に戻せるのか。今後は水面下で「トランプ降ろし」が行われるかもしれないが、つくづく失われたものは大きいと言わざるを得ない。(よしざき たつひこ=双日総合研究所チーフエコノミスト

 

 

 

2016.11.12 11:50更新

【米大統領にトランプ氏】
「米現代史上、最悪の主要政党候補」と酷評も…大統領選予測外れ“敗北”の米メディア 反省の謝罪文掲載するも僅差で困難の弁解

http://www.sankei.com/world/news/161112/wor1611120026-n1.html

 

 今回の米大統領選では共和党のドナルド・トランプ氏(70)が当選を決めたことで、米主要メディアも「敗北」を喫した形となった。大半のメディアが民主党クリントン国務長官(69)の支持を表明する一方、トランプ氏の批判報道に終始したが、結果はトランプ氏の圧勝。世論調査の信頼性に疑問符が付き、今後の選挙報道におけるメディアなどの影響力に陰りが出る恐れもありそうだ。

 「ニューヨークが現実の世界ではないことに改めて気付かされた」

 投票日前日、クリントン氏の当選確率を「84%」と報じた米紙ニューヨーク・タイムズ。10日に掲載した選挙予測の失敗に関する検証記事の中で、編集幹部のディーン・バケット氏はこうコメントし、地方に住む米国民の怒りの声にもっと耳を傾けるべきだったと率直に反省点を挙げた。

 同紙は9月の社説でクリントン氏の支持を表明し、トランプ氏を「米現代史上、最悪の主要政党候補」と酷評した。同紙の記者は「主要メディアなどに見下されている、という(有権者の)思いをつかむのに失敗した」と書いた。今回の大統領選では大手メディアや調査機関が軒並み、世論調査の結果を基に選挙人獲得数の予測を見誤った。

 選挙予測に定評のある米バージニア大政治センター所長のラリー・サバト氏は7日の最終予測で、クリントン氏が322人、トランプ氏が216人で圧勝すると発表。結果を受けて9日、サイトに「われわれは間違えた」と謝罪文を掲載し、「『隠れトランプ支持者』の存在を低く見積もっているとの指摘を受けたが、それを信じなかった」と原因を挙げた。

 2012年の米大統領選の結果を正確に予測した統計分析サイト「ファイブサーティーエイト(538)」も最終予測でクリントン氏の勝率を71・4%とし、痛い目にあった。

 サイトを運営するネイト・シルバー氏は9日、「トランプ氏に投票した100人のうち1人がクリントン氏に投票していれば、クリントン氏が勝利する州が多く、選挙人が上回っていた」と分析。僅差の戦いだったことから、予測が難しかったと弁解した。

 クリントン、トランプ両氏のどちらを支持するかで意見が割れ、関係が悪化した夫婦もいた今回の大統領選。勤務先などで、表だって「トランプ氏を支持するとは言いづらい」と感じた人もいたとされる。こうした心理が誤算の一因になった側面もありそうだ。

主に電話で行われる世論調査で、トランプ氏を支持する人が正直に答えなかったり、これまでの選挙で投票しなかった白人の多くがトランプ氏に投票したりしたと指摘されている。

 選挙戦では国内100紙のうち、クリントン氏支持を表明したのは57紙、トランプ氏を支持したのは2紙のみ。保守系メディアのFOXニュースは、リベラル系メディアについて、「クリントン氏を一方的に応援し、自分たちが見たいものだけを見た」と批判した。(ニューヨーク 上塚真由)