世界が注目する安倍首相の「戦後70年談話」

 

国際激流と日本
不毛な謝罪をまた盛り込むのか?
世界が注目する安倍首相の「戦後70年談話」米国の研究者が日本の誤った外交を指摘
2015.02.04(水)  古森 義久
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42816

日本が「戦後70年談話」で再度謝罪を表明しても和解はもたらされない。謝罪は不毛である――米国でこんな意見が出てきた。
 2015年は第2次大戦の終結からちょうど70年の年である。終戦記念日の8月15日に安倍首相が発する「戦後70年談話」の内容をめぐって、早くも内外で論議が始まった。焦点は、安倍晋三首相の談話が戦争への謝罪を盛り込むか否かである。
 中国や韓国が安倍首相に対して、村山富市首相や小泉純一郎首相、さらには河野洋平外相と同様に戦争に関する謝罪を談話に盛り込むよう求めることは、当然予測される。中国と韓国の両政府はすでにその意向を表明している。
日本の謝罪を期待するオバマ政権
 だが、それ以上に日本にとって気になるのは米国の態度である。日本の同盟国、しかも世界で唯一の超大国、さらに第2次大戦で日本の最大の敵国だった米国が、安倍談話の文言についてどんな態度を示すかは大いに注目されるところだ。
 ただし一言で米国といっても、いろいろな存在がある。まずオバマ政権、そして議会、あるいは民間の学者や識者、そしてニュースメディアなど多様な機関や集団が異なった反応を見せることとなる。
 オバマ政権は、どうも安倍首相に従来どおりの謝罪の表明を期待しているようである。1月6日、国務省報道官は次のように発言した。
「安倍首相の終戦70年談話に関して言えば、村山談話河野談話が示した謝罪は、日本が近隣諸国との関係改善に努力する中で重要な節目になったというのが米国側の見解だ」
 上記の言葉は明らかにオバマ政権からの圧力だった。日本国内でもまだ着手していない首相談話の中身へ、まず「謝罪」ありきを求めたのである。
 ただし、同報道官は、翌7日の会見では「圧力を意図してはいない」と弁明した。そして安倍首相の年頭会見での「戦後の平和への貢献」や「大戦への 反省」という言葉を「前向きなメッセージ」と歓迎し、「謝罪」には触れなかった。だが、オバマ政権全体として、なお安倍首相に対して謝罪表明を期待してい ることは十分にうかがい知れる。
何を述べても中韓両国は満足しない
 一方で、同じ米国において民間の識者たちの間では、これ以上の謝罪表明は不毛であり、関連諸国との関係の改善や和解には寄与しない、との意見も目立ってきた。
 米国大手紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(1月13日付)は、同紙コラムニストで中国やアジアの専門家であるアンドリュー・ブラウン氏による「日本にとって謝罪表明は難しい技だ」と題するコラムを掲載した。
 ブラウン氏は、安倍首相が70周年談話で日本の戦時の行動について全面的に謝罪し、中韓両国との関係改善や東アジアでの和解を図るべきだという声が米国でも挙がっているが、「事態はそんなに簡単ではない」と論じる。
ブラウン氏はそのうえで、すでに宮沢喜一首相や村山富市首相らがその種の謝罪を述べてきたことを強調し、それでも中韓両国などとの「関係改善」や 「和解」をもたらさなかったと指摘した。特に「中国は共産党政権が反日感情を政権保持の支えにし、『謝罪しない日本』を軍拡の正当化の理由に使っている」 から、日本の謝罪は決して受け入れないだろうというのだ。
 ブラウン氏は同コラムのなかで、米国のダートマス大学准教授の若手日本研究学者、ジェニファー・リンド・ダートマス大学准教授の近著『謝罪国家= 国際政治での謝罪』から「安倍首相が何を述べても中韓両国を満足させはしない」という見解を引用していた。リンド氏は「特に中国は日本からどんな謝罪の表 明があっても、不満を述べ続ける」と予測しているという。
 リンド氏はここ数年、米国の大手雑誌や新聞などへの寄稿で、日本の謝罪が「危険」であることを説き、以下のように述べてきた。
「日本が戦時の行為を対外的に謝罪することは非生産的であり、やめるべきだ。1つには謝罪は国内的な分裂をもたらすからだ」
「日本は戦後の民主主義確立、経済繁栄、平和的努力などを対外的に強調すべきだ」
中国共産党が自らの統治の正当性を支えるために国内の反日感情をあおってきたことは周知の事実である」
謝罪は外交手段にならない
 米国ウェスリアン大学教授の国際政治学者、アシュラブ・ラシュディ氏は、近著で国家による謝罪一般について「謝罪は相手の許しが前提となり、心情 の世界に入るため、そもそもの謝罪の原因となった行為の責任や歴史の認識を曖昧にしてしまう」と主張し、謝罪の効果を否定していた。
 また、米国オークランド大学教授の日本研究学者、ジェーン・ヤマザキ氏は近著『第2次大戦への日本の謝罪』で、戦後の日本は異様なほど何回も謝罪 してきたと記す。ヤマザキ氏によると、対外的な国家謝罪は、自国の立場を国際的に低下させ、自国民の自国への誇りを傷つけ、いまとなっては自分たちを弁護 できない自国の先人にとって不公正なものとなる。そのため、普通の国家はしないのだという。
 そのうえでヤマザキ氏は、謝罪を日本の外交手段と見るならば完全な失敗であると断じる。「日本は国家首脳レベルで中韓両国などに何度も謝罪を述べ たが、関係は改善されなかった。国際的にも、日本が本当には反省していないという指摘は消えていない」と論じ、「謝罪が成果を挙げるには、受け手がそれを 受け入れることが不可欠だ。だが、中韓両国は歴史問題で日本と和解する意図はない」と結んでいた。アンドリュー・ブラウン氏のコラムの結論と同様である。
 安倍首相は、これから戦後70年談話を作成するにあたって、米国側の識者や専門家のこうした「謝罪不毛論」を十二分に考慮に入れるべきだろう。同じ米国でも、オバマ政権とはまったく異なる見解もあるということである。